それでも愛を誓いますか？ネタバレ16話！夜の街へ消える武頼。心のバニシング・ポイント

（真山くんがわたしと一緒に帰ろうとしてたがってたけど、テキトーにあしらってひとりで帰ってきちゃった。あー、しんど。ご飯作る気力ないや・・・）

純は冷蔵庫を開けた。

「う～ん、何もないなあ・・・」

とりあえず、サトウのごはんをレンジにかけた。

おかずになりそうなものはない。

食器棚からブルドックソースを取り出す。

温まったご飯にソースを回しかける。

「これがソースをかけたライスで、ソーライス」

学生時代はよく食べたものだ。

今食べても当時のように食欲はそそらなかった。

むしろ食えたものではなかった。

まずい。

そう思った。

もう自分は若くはないのだ。

ソーライスを無邪気にかきこむ若さは自分にはもうなくなっていた。

純は食べ残しをゴミ箱に捨てた。

そして台所に立ち尽くした。

それでも愛を誓いますか？【16話】ネタバレ込みあらすじ

純がひとりで簡単な夕食を済ましていた頃、武頼が帰宅した。

けっこう遅い時間だ。また残業をしてきたらしい。顔が疲れている。

「おかえり」

「ただいま」

純の顔も見ずに洗面所へ向かう武頼。

「ねえ、子供どうする？」

武頼の背中に向かって声をかける。

武頼の足が止まる。

「なんだよ、いきなり」

「もうすぐ40歳になるでしょ」

「まだ3か月先じゃねえか」

「でもすぐじゃん。わたしも36だよ！」

「だから？」

「時間がないじゃん！女の身体はリミットあるんだよ」

「芸能人とかけっこう歳いってても産んでるじゃん」

「芸能人はお金あるからだよ！」

武頼は純の顔を見た。

こういう状態の純には何を言っても無駄だ。冷静に話し合えない時の顔だ。

「カネなら俺が稼ぐよ」

「そういう問題じゃない！」

「じゃあ何の問題なんだ？」

「ちょっとは将来のこと考えてよ！」

「目の前のことだけ考えて何が悪いんだ！それだけでいっぱいいっぱいなんだよ！子どもなんかいてもいなくてもいいだろ！子ども子どもって俺は子ども製造機か？今は仕事でポジション固めていかなきゃいけない時期なんだよ、ガタガタうっせんだよ、俺は疲れてんだよ！！」

「なによそれ！」

「ああ、めんどくせえ」

武頼は脱いだジャケットを再び羽織ると、そのまま家を出た。

「ちょ、どこ行くの！」

何も答えず出て行った武頼。

ひとり部屋に取り残される純。

 

エレベーターで1階まで降りると、同じ階でたまに顔を合わせる住人と行き合った。

武頼と年齢は大して変わらないだろう、名前は知らないが同じサラリーマン風。

小太りでいつも顔が脂ぎっていた。

おそらく営業職なのだろう、今日もいつものごとく愛想良く声をかけてくる。

「ああ、どうも。これからどこかへ？」

武頼は一瞬何と答えるか言い淀んだ。

「・・・あ、いや、どうも」

我ながら変な答え方だったと思う。

足早にエントランスを抜け出る。

カッとなって家を出てきたけど、どうしよう・・・。

飯を食う気も失せた。

いつもの習慣からか、無意識に駅方面に向かって歩く。

コンビニに立ち寄る。

タバコとライターを買った。

（今、ラッキーストライク、520円もすんのか・・・）

タバコは4年前にやめていた。

コンビニ前の灰皿の脇で火をつけた。

煙いだけで何もうまいと思えなかった。

一本吸い終わる頃には気分が悪くなった。

もう一度店内に戻り、残ったタバコをゴミ箱に捨てた。

（ライターは・・・明日会社に持って行って誰かにあげよう）

しばらく歩くと、通りから少し入ったところにレトロゲーム専門のゲームセンターがある。

去年、会社の後輩と飲みに行った帰りに来たきりだった。

武頼が小学生から中学生にかけてプレイしたゲームが色々と揃っていた。

餓狼伝説。

小学校6年の時に、当時学校の近くのレンタルビデオ屋の一角に設置していたゲームだ。

みんなでいつも外が真っ暗になるまで夢中になってやった。

武頼のお気に入りのキャラはジョー東。

ムエタイの使い手だ。

コインを入れると懐かしいBGMが鳴り響く。

ジョー東を選択して、最初の敵キャラクターを誰にするか決める。

タン・フー・ルー、拳法の使い手の小柄な老人。

（よし、いくぞ）

・・・・・。

必殺技が思うように出ない。

というか、全く出せない。

ボコボコにやられてゲームオーバーとなる。

小学生の頃は、全面クリアできたのに。

何もできなくなってしまった。

俺は・・・・俺は・・・・。

ゲームオーバーの画面から切り替わり、デモ映像が流れる。

武頼は呆然として画面を見つめていた。

時折、画面が切り替わるときに一瞬画面が暗転する。

そのときにスーツ姿の自分の姿が一瞬映る。

ふいに涙が落ちた。

涙は太腿の上に落ち、スラックスの生地に染み込んだ。

武頼は嗚咽した。