失恋未遂ネタバレ121話｜居酒屋デート、そして時峰の部屋で秘密のスケッチブックを目撃する泉

 

時峰にはすべてお見通しだった。

泉は最近忙殺されていて、とても疲弊していたのだった。

 

一時は退職すら考えたほどであった。

それでもなんとかチョコラBBを飲んだり、フェミニーナ軟膏を塗ったりして、かろうじて仕事は続けてこれた。

 

「最近、いつも仕事が終わるのは午前2時ごろなのよ」

「そりゃあ、ひどい」

 

時峰は泉の杯に日本酒を注いだ。

「僕なんかは定時前に帰るけどね。後輩にタイムカードを押させてる」

 

時峰が注文した焼き鳥が運ばれてきた。

「なぁにそれ？」

 

「玉ひも。これはね、雌鳥だけにある部分だよ。

鶏の卵巣でさぁ、玉子になる前の黄身（キンカン）や卵管（玉ひも）なんだ。

 

半熟の黄身を口の中に入れるときにはじける黄身の味は、まさに濃厚この上ない味わいだよ。

せぎもより希少部位だしね」

 

「すごぉい」

 

泉は玉ひもを食べてみた。

思わずお口がパラダイス。

 

時峰の目がキラリと光った。

失恋未遂【121話】ネタバレあらすじ

全席個室の居酒屋にて

モダン和風の内装。

内装に畳や障子を使用していながら、現代的なお洒落な雰囲気を醸し出している。

 

「まずは、ビールでいい？」

サッポロクラシック。

 

「くうううう、美味い！」

さすがサッポロクラシック。

 

「仕事終わりのビールは最高だね！」

やっぱりサッポロクラシック。

 

「ところでさ、先生。なんか疲れた顔してるね。仕事、忙しいの？」

「あったぼうよ！」

 

泉はおしぼりで顔を拭いて、そして言った。

「もうね、終電にも乗れないから最近タクシーで帰ってる」

 

「めっちゃ多忙やん」

「そうよ。そうなのよ」

 

泉の職場は人員不足で時間外労働が慢性化していた

今年に入ってから2人退職している。

会社側は労働環境を改善するつもりはないようだ。

 

泉も多忙の余り体調を崩し、ここ最近は退職を考えるようにまでなっていた。

あまりにもブラック。

 

しかもディープなブラック。

これこそが美しい国JAPANだとでも言うのであろうか。

 

「そんな仕事やめちゃいなよ」

「でもね、貯金もないし」

 

「そうか・・・」

時峰のさわやかな笑顔を見ているだけで癒される泉であった。

 

心と体のバランスがとれていると思っていたのに、気が付けば時峰の存在が大きくなってしまった泉。

泉はもう自分の気持ちに気づいていた。

居酒屋で時峰とサシで向かい合い、幸せになる泉。

 

時峰を求める気持ちは抑えられなくなっていた。

この関係を壊さないために彼氏と別れたことも時峰が好きなことも言わないことに決めた泉なのであった。

 

自分の存在価値のために仕事をしているのかもしれないと泉が言うと、時峰はそんなものは俺が認めてあげるよ、頑張ってるねと頭を撫でた。
その優しさに涙がこぼれる泉。

 

おさえきれないこの気持ち、今。

涙ぐみそうさ。

 

瞳閉じて　かわしたKissに瞬間（とき）を飾る

Oh　ゆるがない想いなら　君に送るよ

 

しかし、時峰はこともあろうに涼しい顔で「あくまでギブ&テイクだから」と発言し、熱が冷める泉だった。

ズルい女

居酒屋で楽しく飲んだ後、泉を自宅に連れ込んだ時峰。

部屋で談笑中、泉はスケッチブックを見つけた。

 

中に描かれていたのは以前、時峰が部屋に連れ込んだ年上の女性の顔であった。
付き合わないのと尋ねると、言わなければいけないのかと拒絶する時峰。

 

泉は帰ろうとしますが、時峰は彼女には婚約者がいるんだ、と話し出す。
相手は一流デザイナーであり、彼女自身も一流建築家の娘だそう。

 

出会った時には既に婚約者がいて手遅れだった、けれどそんなことも関係なく好きになっていた、と時峰。
泉は女々しい男ねと指摘すると時峰はつらそうな顔をした。

 

胸が痛む泉は涙を流すのであった。
泉は一つ決意した。

 

時峰の気持ちを知ってもそばにいたいから、ズルい女になるよ、と。

あんたちょっといい女だったよ、だけどズルい女だね。

時峰の本命は別の女性！？

スケッチブックに描かれていたシックな美人。

泉とは全然違うタイプ。

 

「誰、この人？」

「誰でもいいだろ」

 

「言いたくないのね」

「そりゃあね」

 

「ああ、そう」

「どうすんの？帰る？」

 

時峰目掛けてクッションを投げつける泉。

その目には涙を浮かべていた。

 

「落ち着けよ」

「なによ！」

 

時峰はとりあえずクノールカップスープを用意した。

コーンクリームの香りが漂う。

 

「あなたが本当に好きなのは、その人なのね」

「ああそうさ、LOVEさ。本命さ。恋焦がれていて、今すぐにでもひとつになりたいさ！」

 

ついに本心を吐露した時峰。

テーブルの上のふたつのマグカップに入ったクノールカップスープに二人は手を付けずに、ただ冷めていくのみであった。

 

愛が冷めてしまう前に

時峰からすれば、泉は都合のいい女だった。

単にキープしておきたいのだろう。

 

しかし。

泉だって適齢期なのだ。

 

女としてのプライドもある。

けれど。

 

けれど・・・。

時峰を目の前にすると、そのプライドも溶けて流れ出してしまう。

 

まるで熱されたバターのように。

溶けて流れ出す。

 

黄金に輝く。

トロトロになる。

 

夢を見ているような気分。

泉は酩酊していた。

 

さっきの居酒屋では平気な風を装っていたが、実はけっこう酔っていた。

 

スピーカーからディアンジェロが流れ出す。

時峰は曲に合わせてアコースティックギターをつま弾いた。

 

とても悲しい音色だった。

泉の目から涙があふれ出た。

 

スープの味。明け方の空。

時峰の前で泣くことで何も解決することも進展することもない。

そんなことは泉にもわかっていた。

 

けれど、涙があふれて止まらなかった。

 

「今日はもうお帰り」

時峰が言った。

 

「せっかくだからスープをいただいてからにするわ」

スープは冷めきっていた。

 

何の味もしなかった。